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【SS】心に芽吹いた花
ある日、寒がりな汰露に瑞が羽織を贈った。
「これ…、俺に…?」
ここへ来た時に使っていた自分の羽織はあまりにも草臥れていて、汰露は早々に処分してしまっていた。
「あぁ、君にきっと似合うと思って用意したんだ。
それに、温かいのは好きだろう?」
そう言った瑞は、汰露に羽織を着せてやりながらとてもきれいに微笑んでいた。それを見た汰露はこみ上げる何かに胸が苦しくなり、もらった羽織ごと胸をぎゅっと握った。
「…っ」
それを見た瑞は、心配そうに汰露の顔を覗き込む。
「どうしたんだ?どこか苦しいのかい?」
その問いかけに汰露は、目尻をほんのりと朱色に染めて眉を寄せながら答えた。
「胸、が…きゅうってして、る…。お、俺…っ。」
汰露は、生まれた時から感情や感覚が抜け落ちてしまっていた。瑞と出会って一つずつその抜けた穴が埋まっていく時、汰露はこうやって瑞に”これは何なのか”と問うのである。
それが愛しくて堪らない瑞は、いつも優しくそれを教えてあげるのである。心に咲いた新たな感情に戸惑う汰露の髪をすいて染まった頬を撫でながら、瑞は優しく答えを返す。
「ふふ、大丈夫。それは…そうだな、きっと”嬉しい”だと思うよ。」
君が喜んでくれているようで私も嬉しい、と瑞は言った。
「これが…”うれしい”…。」
その言葉を噛み締めるように汰露は呟いた。やがて、心が満たされたかのような表情で瑞に微笑み返したのである。
その想いが”愛しさ”であることを汰露が自覚するのはもう少し先のこと。
じわりと温かく溢れてくるこの気持ちが嬉しいだけなはずがない、と――
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