21章 愛し合ってるからこそ

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・ 冷たい風が道路に落ちた街路樹の葉を扇いで躍らせる── 時はそろそろ12月。 寒さに一瞬だけ身を縮め、あたしはバイト先までの道を歩いていた。 夏希ちゃんは今日はロケだと早くに家を出て行った。この間のバイトの番組と同じロケらしい。 何気に楽しみな様子を浮かべながら、玄関で靴を履く夏希ちゃんにあたしは尋ねた。 「今度は何するの?」 「秘密! いってきます」 嫌にニヤニヤして夏希ちゃんはキスをすると家を出て行った。 ニヤニヤするようなバイトなんだろうか? どんな物なのかまったく想像できないでいる。 夏希ちゃんからかなり遅れてマンションを後にするとあたしは通勤時間、約15分を掛けて和らぎに到着していた。 店の裏口から入ると何やら騒々しい── 色んな機材を抱えた人達が厨房を占領している姿が見える。 「これは何っ? 何事っ!?」 その人々を眺めているママさんに後ろからそう声を掛けていた。 「あ、晶ちゃんおはよ」 「あ。おはようございますってか、これなに?取材?」 「撮影よ」 「撮影?」 グルメなんちゃらだろうか? そう言えば前にそんな番組が取材にきたことがある。 ワンコインランチを始めた当初、この界隈の飲食店の特集を組んだ番組の撮影。 ただ、今日はその撮影よりもなんだか仰々しい雰囲気が漂っていた。
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