14.推し語りタイム(Side安原)

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14.推し語りタイム(Side安原)

 次の日。  加賀谷さんはいつも通り、三人の一年を引き連れて山へ向かった。  そんで俺もついてく。昨日までの俺とは違うのだ!  チャリがあるから!  今日こそ今まで撮れなかった絵を撮るのだ! つまり山を走る神を!  てか誰のチャリなんだコレ? まあいいけど。とにかく、山走る加賀谷さん追っかけたくても、あの速度について走ってくのは無理なんで諦めてたんだよね~~、でもめっちゃ撮りたかった~~!  片手にカメラを構え、片手でチャリのハンドル握り、撮るんだけどムズイっ! チャリ漕ぎながら撮影ってめちゃ厳しいぜっ!  公道走ってるときは、歩道が狭いのと車道は車がいて距離取れなくて、全体の姿がなかなか撮れねー。んだけど山ん中に入れば! きっとイイ絵撮れる!  ……と思ってたのに山道はもっと狭くて、横から全体撮れねえ。しかも道が真っ直ぐじゃねーから、ずっとカメラ覗いてんの厳しいっ! 山道はデコボコしてるし、オン・ザ・チャリ撮影、超ムズい!  しょうがなく道確かめつつ、追っかける感じで撮ってた。そうすっと他の三人も入っちまう。つうか、う~~ん、後ろからだと三人の合間から加賀谷さん見える感じなんだよな~、だけってわけにいかねーな~……  けど負けねえ! 神映像ゲットのためだろ! 頑張れ俺っ!  つって必死にやってて……気づいた。  さっきまで並んで走ってた三人のうち一人、ちょびっとだけ遅れてる。それに走り方、なんか変だ。てかヤな感じした。  あれってワンチャン痛くなってね? それ、かばってるとか……?  でも違うかもだし、練習してんの勝手に止めちゃマズくね? でも、もし痛いんだったら……そんで我慢して走ってんだったら……やばいんじゃね? 「すんませんっ」  声かけつつカメラを下ろし、チャリ漕ぐ足を速めて、みんなの脇を抜けて先頭走ってる加賀谷さんの横まで行く。 「あの、一番後ろの人、ふくらはぎか膝か、痛いんじゃねーかな。このまんま走ってたらヤバいんじゃねーかなって思って」  コソッと言ったら、チラッと後ろ見て眉寄せ、二人へ先行くよう手振りしてクルッと逆走、遅れてた一人のトコまで行って声かけた。 「痛むのか」 「大丈夫です」  そいつはマジ顔で言ったけど、加賀谷さんの眉根に縦皺が刻まれた。 「……ちょっと止まれ」 「大丈夫です。乳酸溜まってきてるけど、それだけ……」  そいつが言い終わる前に、加賀谷さんは腕をつかんで立ち止まる。走ってるから後ろに引かれるみたいになって、咄嗟に足にチカラ籠もったんだろな、「うっ」声漏らしたそいつは膝のチカラ抜けたみたいで、崩れそうになったのを加賀谷さんが腕一本で支えた。 「っ…………」 「無理するな」  厳しい顔で低い声で、叱るみたいに言う加賀谷さん! うわかっけー、マジかっけー、やっぱ神! もちろん激写する! 「怪我になったら終わりだぞ」 「……すみません」 「…………」  膝を折り、屈んだ加賀谷さん。厳しい眼が神がかってますっ!  足に触れて「熱持ってるな」と呟いた加賀谷さんは、そいつにギッと睨む目を向けた。息飲むみたいに黙ったそいつは、くちを真一文字にしてる。 「水飲んで休んでろ。帰りに拾う」 「……はい」  項垂れたそいつが道の脇に座るの見て、こっくり頷いた加賀谷さん。おおおう、レアだ、レア加賀谷さんだっ! もちろん撮りまくってたら、神の手がこっちに伸びた。 「ジャケット」 「えっ?」 「寄越せ」 「うあ、ぁはいっ」  慌ててジャケット脱いで渡す。それは項垂れた一年の肩にかかる。 「身体を冷やすな」 「…………はい」  ため息混じりの返事に頷くと、またこっち見た。おお~~~、いつ見ても凜々しい眼差し!! 「おまえ」 「はいっ!」  分かってます加賀谷さんっ! コイツの代わりにどこまでもついて行きますっ! 「ここでコイツを見てろ」 「え!?」  いやいやいや、神映像撮るために来たんだしっ! 当然抗議するっしょ!! 「でも俺加賀谷さんの……っ」 「黙れ」  ギッと睨まれ、息を呑む。 「無理しないよう見張ってろ。分かったな」  そんだけ言って、さっきよりゆっくりペースで走り去る神の背中を空しく見送る。はあ、ため息出たけど、しっかり動画は撮る。
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