24人が本棚に入れています
本棚に追加
14.推し語りタイム(Side安原)
次の日。
加賀谷さんはいつも通り、三人の一年を引き連れて山へ向かった。
そんで俺もついてく。昨日までの俺とは違うのだ!
チャリがあるから!
今日こそ今まで撮れなかった絵を撮るのだ! つまり山を走る神を!
てか誰のチャリなんだコレ? まあいいけど。とにかく、山走る加賀谷さん追っかけたくても、あの速度について走ってくのは無理なんで諦めてたんだよね~~、でもめっちゃ撮りたかった~~!
片手にカメラを構え、片手でチャリのハンドル握り、撮るんだけどムズイっ! チャリ漕ぎながら撮影ってめちゃ厳しいぜっ!
公道走ってるときは、歩道が狭いのと車道は車がいて距離取れなくて、全体の姿がなかなか撮れねー。んだけど山ん中に入れば! きっとイイ絵撮れる!
……と思ってたのに山道はもっと狭くて、横から全体撮れねえ。しかも道が真っ直ぐじゃねーから、ずっとカメラ覗いてんの厳しいっ! 山道はデコボコしてるし、オン・ザ・チャリ撮影、超ムズい!
しょうがなく道確かめつつ、追っかける感じで撮ってた。そうすっと他の三人も入っちまう。つうか、う~~ん、後ろからだと三人の合間から加賀谷さん見える感じなんだよな~、だけってわけにいかねーな~……
けど負けねえ! 神映像ゲットのためだろ! 頑張れ俺っ!
つって必死にやってて……気づいた。
さっきまで並んで走ってた三人のうち一人、ちょびっとだけ遅れてる。それに走り方、なんか変だ。てかヤな感じした。
あれってワンチャン痛くなってね? それ、かばってるとか……?
でも違うかもだし、練習してんの勝手に止めちゃマズくね? でも、もし痛いんだったら……そんで我慢して走ってんだったら……やばいんじゃね?
「すんませんっ」
声かけつつカメラを下ろし、チャリ漕ぐ足を速めて、みんなの脇を抜けて先頭走ってる加賀谷さんの横まで行く。
「あの、一番後ろの人、ふくらはぎか膝か、痛いんじゃねーかな。このまんま走ってたらヤバいんじゃねーかなって思って」
コソッと言ったら、チラッと後ろ見て眉寄せ、二人へ先行くよう手振りしてクルッと逆走、遅れてた一人のトコまで行って声かけた。
「痛むのか」
「大丈夫です」
そいつはマジ顔で言ったけど、加賀谷さんの眉根に縦皺が刻まれた。
「……ちょっと止まれ」
「大丈夫です。乳酸溜まってきてるけど、それだけ……」
そいつが言い終わる前に、加賀谷さんは腕をつかんで立ち止まる。走ってるから後ろに引かれるみたいになって、咄嗟に足にチカラ籠もったんだろな、「うっ」声漏らしたそいつは膝のチカラ抜けたみたいで、崩れそうになったのを加賀谷さんが腕一本で支えた。
「っ…………」
「無理するな」
厳しい顔で低い声で、叱るみたいに言う加賀谷さん! うわかっけー、マジかっけー、やっぱ神! もちろん激写する!
「怪我になったら終わりだぞ」
「……すみません」
「…………」
膝を折り、屈んだ加賀谷さん。厳しい眼が神がかってますっ!
足に触れて「熱持ってるな」と呟いた加賀谷さんは、そいつにギッと睨む目を向けた。息飲むみたいに黙ったそいつは、くちを真一文字にしてる。
「水飲んで休んでろ。帰りに拾う」
「……はい」
項垂れたそいつが道の脇に座るの見て、こっくり頷いた加賀谷さん。おおおう、レアだ、レア加賀谷さんだっ! もちろん撮りまくってたら、神の手がこっちに伸びた。
「ジャケット」
「えっ?」
「寄越せ」
「うあ、ぁはいっ」
慌ててジャケット脱いで渡す。それは項垂れた一年の肩にかかる。
「身体を冷やすな」
「…………はい」
ため息混じりの返事に頷くと、またこっち見た。おお~~~、いつ見ても凜々しい眼差し!!
「おまえ」
「はいっ!」
分かってます加賀谷さんっ! コイツの代わりにどこまでもついて行きますっ!
「ここでコイツを見てろ」
「え!?」
いやいやいや、神映像撮るために来たんだしっ! 当然抗議するっしょ!!
「でも俺加賀谷さんの……っ」
「黙れ」
ギッと睨まれ、息を呑む。
「無理しないよう見張ってろ。分かったな」
そんだけ言って、さっきよりゆっくりペースで走り去る神の背中を空しく見送る。はあ、ため息出たけど、しっかり動画は撮る。
最初のコメントを投稿しよう!