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16.検証
夕食後の208号室。
加賀谷さんは鋭い目をPC画面に向け、つぶやいた。
「やはり、おまえはおかしい」
「え~!? なんでッスか~」
とか文句っぽいこと言いつつ、俺は満面笑顔。
なぜなら神、加賀谷さんが背後から密着してるから。
つうか俺が椅子に座ってPC弄ってて、コーチが横に立って指示してるんで、神はベッドに立て膝状態座ってPCモニターに注目したわけなんだけど、色々やってる内にどんどん集中したっぽく、どんどん近づいてきてくれちゃったりしたわけで、今や背中に神の体温を感じちゃって、耳のすぐそばに頬があり……なんなら頬と頬が触れそうな位置まで接近してるわけで!
ほのかに神の香りとか感じ取れちゃったりしてるわけで!
ここはぜひとも横顔を堪能したいトコ!
なんだけど
「んん? もう一度教えてくれるか」
「だからココっす、ホラ、動き変っしょ?」
「ちょっと待って、どう変だって?」
とか、ちょいちょいコーチが言うんで、目も手も動かさねーとだし見れねえ!! ああっもどかしいっ!!
つっても隙見てチラチラ横顔堪能してるけどな!
ぶっちゃけ、至福の喜び感じてる。
だって神の手料理(と信じてるが、実は食堂のおばちゃん作である)を感動と共に食い終え、そのあと神のベッドに寝転んで匂ってみたり、本棚に並ぶ本をメモってみたり、引き出しやロッカーの中にある服とか見て萌え萌えキュンキュンしてたわけで、ついでに下着なんかも……いやいやいや、ともかく充実した時間を過ごしてたわけ!
至福の時を三十分ほど過ごしたんで、二人揃って部屋に来たときには、すでに気分アゲアゲめちゃんこハッピーだったし。
んで、今日撮った動画を見てる。コウガミの動きメインで。あんま楽しくねーけど、加賀谷さんもコーチも、今日はそこを見たいつーから仕方なく。
「ココっすよ! つうか、もっと分かりやすいトコ……」
「だからどこだと聞いている」
「ちょい待って加賀谷さん……ああっと、ココ、ここらへんの動きとか、ちゃんとチカラ入ってないっぽくないすか」
「……ここらへん? すまん、もう一回戻してくれ」
なぜだか二人には見えてないようなわけで、何度も解説させられてるんだけど。なんで分っかんねーかな?
「ここ、か……?」
コーチの口調は柔らかい。けど分かってないぽい?
まあいいや、この隙にっ! チラッと見た神の横顔、は、
「………………」
うわあ眉間の縦皺すさまじいことになってる。なんで? こんな明らかなのにさ!
「もう一度戻してくれ。……ここだな?」
「そうっす! で~、逆にここらへん、無駄にチカラ入ってるぽいなあって。バランス悪いつか。でもいつものコウガミ知らないから違うかもって思って。……でも、もし痛いのかばって走ってるンならヤバイかもって。そんで加賀谷さんに聞いてみたんス」
「なるほどな。うーん……それで加賀谷はどう思った?」
「……汗をかきすぎのように見えたので、止まらせました。膝の辺りに触ると熱を持っていたので、水を飲んで休むよう言いました」
「つまり、おまえが見ても分からなかった、ということか」
「………………」
画面を見たまま眉寄せてる加賀谷さんを見て、コーチは「ふぅー」と息を吐き、難しい顔で郁也を見る。
「だが……君は変だと思った」
「え、違うっす、分かるっすよね? 見れば」
だって明らかヘンじゃん?
コーチが片眉だけ上げて、加賀谷さんに言う。
「これは、今後も彼に頼むことになりそうだな。色々と」
「………………」
眉寄せて不満げに目を伏せる神に、ククッと肩を揺らしたコーチに言われてしまった。
「明日からは陸上部全体の撮影を頼む」
「ええ~~? でも俺……」
撮りたいのは神だけだよ! と主張しようとしたら
「頼む」
と言った他ならぬ神の顔が、苦虫を噛みつぶすような絶賛の可愛さだったので、思わず胸を張っていた。
「任して下さい!」
いつものように画像をダウンロードしたら、入浴すると言われたんで、おとなしく寮を出て帰宅する俺。
バスに乗り込んで、近くに人がいないのを確認して、鞄から薄い本を取り出した。
「うへへ……コレよコレ」
ニヤケながらページをめくる高校生に気づいた、なにも知らない乗客たちからそっと距離を取られても、まったく気にしてないのだった。
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