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つーわけで次の日。俺は声をかけた。
「あー、ちょっといいかなぁ」
前にきゃいきゃい言ってたクラスの女子、三人組。
野郎二人で遊んでっとなにげに写メ撮る。休み時間とかちょいちょい薄い本とか見せ合って奇声発してる。なにげに楽しそうだけど、めっちゃ目立ってるし浮いてる、腐女子と名高い連中。
けど俺はそんなの気にしない! 加賀谷さんのためなら、どんな困難も乗り越えてやるぜっ! つー勢いのもと、朝イチでズンズン寄ってく。
つーか別に声かけるくらい、なんでもねーけども。
「なによ」
「しっしっ」
「コッチ来るな安原」
慌てて薄い本を隠してる。つもりらしーけど、なにやってんのかバレバレだよキミたち。
「ちょっと聞きたいことあって」
「はあ? なによ」
「ていうか中途半端なのよ、あんた」
「眼鏡属性にしちゃデカ過ぎだし」
「ワンコ属性にしちゃ変でキモイし」
「ヤンデレにしちゃ開けっぴろげだし」
「しかも相手があれじゃあねぇ」
「小柄だけどショタでもないし」
「目つき悪いのに真面目だし」
「あの顔ならヤンキー属性で受でしょ」
「スポーツやってるのに熱血でもないしね」
「カップリングおいしくないのよ、あんたたち」
なに言ってんだか分かんねえ。
ま、いいや。聞くだけ聞けばいっか。
「えっとー、スパダリの傾向と対策知りたいんだけど、なに読んだらイイ?」
「え、なになに安原ってBL好きだったの?」
「ていうかスパダリ行くんだ?」
「いや、てか~~スパダリなひとが好きっ、てか~~、だはっ!」
ついついデレちまったら、いきなり目つきが変わった。
「ちょ……っ!」
「きゃぁ、マジ?」
「ダサいデレ……意外とイケる……?」
妙に据わった目になった三人組が、わさっと寄ってきてガシッと腕とか拘束された。そんでなぜか美術準備室へ引っ張って行かれ、閉め切った個室で詰め寄られた。
「好きな人って男なのよね? スパダリなんていた?」
「えっ」
「誰なのよっ! うちの学校なの違うのどっち!?」
「リアルスパダリ見たい!」
「言っちまえ~! 誰にも言わないから吐け~!」
てか分かるしょ、加賀谷さんしかいねーよそんなん。
「なんで見落としてた? 自分が憎いっ」
「激写しなきゃ」
「この際安原との絡みでもヨシ」
「吐け安原、観念しな」
「絶対味方するから、言っちゃえ?」
「いや言わねえよ!?」
とかなんとか脅しだかなんだか分からない感じで詰められたけど、なんとなくヤバい感じがして加賀谷さんの名前を出すことだけは回避し、絶対本を傷めない! 続報を必ず報告する! という条件付きで本を貸してもらえることになった。
「スパダリならコレっていうの厳選したから」
「どれも名作よ。心して読んでね」
「決して汚さないで。折り目もつけないで」
すっげ怖い顔で言われたけども。
そんで加賀谷さんの手料理(ではなく食堂のおばちゃん作である)を頂いた感動を胸に乗ったバスで、帰宅まで待てずに、いそいそ薄い本を開いたのであった。
「う~~ん、スパダリっても色々あんだな~。てか加賀谷さんの方が千倍輝いてるっつの」
もちろん神のおそばにいるとき、つまり学校では神々しい姿を見る方が大切だから、それ以外の時間を学習に向けるしかねえのだ。
「うおっ、思った以上にエロがリアル……っ」
とかなんとかくちに出してしまいつつ、うっかりバスを一駅乗り過ごし、ダッシュで帰宅した。
その日以降、家にいる時間は風呂以外、メシの時もトイレでもみっちりスパダリ研究にいそしみ、集中しすぎて『加賀谷さんノート』に礼賛の詩を書き連ねることすら忘れ、眠りに落ちる。
「加賀谷さんの夢見れますように」
そんな思いから、完全ガードした大量の神写真を枕の下に入れてあるのだ。ベッド周りにも、加賀谷を激写した写真が所狭しと貼ってある。
もはや『神』たる加賀谷を鑑賞するために生きていると言っても過言では無い郁也なのであった。
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