19.日常風景

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 食後は加賀谷が浴室に向かうのを待ってから二〇八号室へ連行され、待機を命じられる。  ドア前には有志がいて見張ってるわけだが、これもまた至福の時間である。色々匂ってみたり加賀谷さん情報満載のPCを弄ったりできるからだ。 (いつのまにか勝手にログインしてるだけで誰も許していない。泰史も諦めの境地になっているだけである)  やがてコーチと共に神が来て動画を精査するのだが、集中すると神たる泰史が接近して来るので、やはり至福の喜び感じつつ時間を終え、帰宅する移動中は薄い本などでスパダリ研究にいそしむ。  夕食は寮で済ませているので、入浴して自室へ戻り、自動的に『加賀谷さんノート』を取り出す。郁也の中の詩人が活動開始するのだ。  ちなみに交流合宿の日から書き始めたこのノートは、たった二月(ふたつき)足らずで三冊目に突入している。  さらに語彙を増やそう計画も地味に進めている。空き時間(加賀谷さんを見れない時間で薄い本を見られない時間、つまり授業中とか)を使って、主に神話とか読んでたりするのは、カッコイイ礼賛を捧げたい一心である。  ともあれ、つらつら書き連ねながらも、今日一日を反芻する郁也の顔は緩みっぱなしだ。 (てか今日は睨まないで話してくれたし、うほー、これイイ感じで進んでね? だよなだよな、このまんま行けるよな!)  そしてもちろん、スパダリ研究も欠かさない。毎日授業前や休み時間に連行される美術準備室で、噛み合わない部分もありつつ、腐女子ズとの会話は漏れなく盛り上がる。 (スパダリは懐きすぎるよりちょいツンな感じの方が効くとか言われたけど、んでもなぁ~、無理だって!! 目の前に加賀谷さんいたら抑えらんねーし!)  むしろ郁也視点の解釈で色々語ったことで、腐女子ズはキャーキャー盛り上がっていたので、この方向で間違っていないと確信し、真っ直ぐ突き進んでいるくらいで、誤った方向の知識は深まっている。 (んでも昨日、加賀谷さんの部屋で待ってる間にうっかり寝ちまったのに)  前日、加賀谷さんノート執筆に夢中になり、資料としている神話やBLマンガをひもときしているうちに朝になっていて、そのまま学校へ来た郁也は、ひとり二〇八で待っているうちにうたた寝してしまったのだが (殴った後アタマからタオルかけてくれたし! マジ感動だった~~!! 怖い顔で「とっとと帰れ。そのタオルはやる」なんて言ったけど! めちゃ優しいよな~~~!! 基本ツンだからアレでオッケだし!! むしろさらに近づいてんじゃね!? だってタオルくれたし!! てかスパダリに可愛がられる後輩の座ゲットしたってコトじゃねーの?)  どんどんエスカレートしていく思考を止められる者など、誰一人いない。 「よっしゃ頑張る!! ファイト俺っ!!」  深夜の自室で期待と喜びを満面に現しつつ拳を打ち上げ、これからもこのまま突き進むぜ! と毎夜心を固める郁也であった。
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