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……集中、しやすくなっている。
いや違う、あくまであいつを見ないようにしている副産物であって、あいつのおかげというわけでは……
「……ふうん? じゃあもらっちゃおうかなぁ」
いつも通り、奥沢はヘラッと笑った。
いや違う、目が笑ってない。と思った次の瞬間。
ガスッ
音がした、と思う前に倒れていた。
「なめんなよぉ~加賀谷ぁ~」
見下ろしてくる奥沢の少し歪んだ笑みに、握りしめたままの拳に、殴られたのだと知る。
「おまえが一番影響受けちゃってるくせに、なに言ってンの?」
……影響?
おまえこそなにを言ってる。被っているのは迷惑だ。なんで分からない。
眼の奥から、激しい怒りが拭き上げる感覚で視界が赤くなる。沸点は低くない方だが、殴られておとなしく従うほど素直でも無い。
ギリッと見上げようとして、横から衝撃を受け、視界が阻まれる。
「加賀谷さんっ!!」
犬……安原が、いつの間に来たのか、抱き起こしてユサユサ揺さぶっている。
「大丈夫っ!? いやだ加賀谷さん死なないでぇぇぇぇっ!!」
……いや。死にはしないが。
「どうしてっ!? なんで倒れてるんスかっ加賀谷さぁぁぁぁぁんっっ!? 今日調子良かったじゃないスかぁぁぁぁっ!!」
おい、しがみつくな。生きてる、だから離せ、揺らすな。
そんな一心で犬を引きはがす。
「落ち着け」
「ああっ、生きてたぁぁぁっ!! 良かったぁぁぁあっ!!」
なんで……泣いてる。
というか大泣きだ。涙ってモンはここまで大量に流れるものなのか。
「良かったぁぁぁぁ加賀谷さんっ!!! 抱きしめていいスかぁぁぁっ! いいスよねっ無事だったんだからっ!!」
良いわけがない。
というか、まだ頬に涙流れてるくせに、なんで締まりなくニヘラと笑ってるんだ。
眉が寄ったのも無自覚なら、ゴインとアタマを殴ったのも無自覚だった。
「痛った~~~~っ」
しがみついていた手が頭へ移動し、解放されたのでホッとしつつ立ち上がる。
ケツをパンパンと払っていると、吹き出す音とゲラゲラの笑い声が聞こえてきた。
奥沢が笑っている。さっきのはなんだったんだ。イラッとする。
戸惑い、苛立ち、それを押し殺しつつ周囲に目をやると、生ぬるい笑みで注目されていた。
「痛いっすぅ~~、いつもより五割増しくらい強くないスか~? 」
……力が抜ける。
殴られた衝撃も、目の笑ってない奥沢も、反撃寸前まで噴き上がった怒りも、それから……色々考えてたことが全て、どうでも良くなった。
「つうか生きてて良かっ」
「黙れ」
黙った。
地べたに座り込み、両手をアタマに当てたまま、目尻や頬に涙のあとが残るまま、上目遣いに見上げてくる。
気づくと手を伸ばしていた。
伸ばしてしまった。
「わぁっ!!」
手は、ガシッと拝むように両手で掴まれた。
成り行き上、助け起こすと、ぱああ、と音がするほどの勢いで顔が紅潮し、満面の笑顔になりつつ立ち上がり、手を広げ
「やったぁ~~~!」
言いながら、しがみつき……いや、これは。
身長差があるため、胸に顔を押し付けられてる格好になっているが、……抱きしめられているのではないか。
「……離せ」
注目を浴びているのだ。こんな状態に甘んじるわけには行かない。
しかし。
「めちゃ感激っすぅ~~~~っ!!」
犬はギュウギュウと腕に力を込め続けている。
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