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僕が玄関にたどり着く頃には、古井さんの押したチャイムを聞いて、中から人が姿を見せていた。
四十代位の、品の良さそうな奥様だった。
「どうもどうも、お待たせしちゃってすみません」
近所中に響き渡るような古井さんの第一声に、奥様が縮み上がるのが判った。僕は古井さんの後ろで、黙ってお辞儀をする。
ようやく僕らの正体に気づいたらしく、奥様は静かに「こちらへ」と促して家の奥へ入って行った。
「では、失礼をばいたします!」
快活な挨拶と共に、古井さんは上がり框をまたぐ。僕もそれに続く。
僕らは和室に通された。
「今日は久しぶりに晴れて、気持ちの良い天気ですなあ。ここのところ雨続きでしたからねえ」
お茶を出してくれる奥様に、古井さんは当たり障りのない天気の話題などを持ちかける。場を和ませようと言うのだろうが、奥様の反応は「そうですね」と鈍い。
「いやね奥さん。私共にお任せいただければ心配はご無用ですから。大船に乗った気持ちでご安心ください!」
大船に乗せるのが好きな人だ。古井さんの陽気なテンションに反し、奥様はどう見ても心配を募らせている。
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