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「いやほんと、私たちはプロですからね。不安があれば何でも言ってください。悪いようにはしませんから!」
家を揺らす勢いの高らかな声に、奥様が身体を強張らせているのが判る。もう限界だった。
「古井さん、その辺で」
僕は古井さんの胸の前に手をかざす。
「後は僕がやりますので」
穏やかに言って、僕はテーブルの上に資料を並べる。
「改めまして、この度は……」
僕が頭を下げようとしたとき、
「ちょっと、外の風に当たってくる」
と古井さんが不意に立ち上がった。耳たぶから、禿げ頭の天辺までが赤くなっている。
息子ほどの年齢の僕にたしなめられたのが、よほど応えたのだろう。へそを曲げた彼が、玄関からガタンと出ていく音が聞こえる。
「あのぉ、あの方は……」
奥様が恐る恐るという具合に口を開く。
「教育不足で申し訳ございません。うちの新人です」
僕の話にぽかんとする奥様。
「高齢者の新規採用枠でして、前職は健康食品の営業だったようです」
「ああ、それで」
奥様はようやく腑に落ちた表情だ。
「では」
僕は資料を奥様の前に差し出す。やっといつものように仕事が始められる。
「ご葬儀の段取りについてご説明いたします」
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