なあ

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なあ

なあ、お前と飲む時はいつも六本木や麻布の小洒落たバーだったな。社会人一年目だから金もないのに、クリエィティブな人は港区に集まるんだ、なんて言って俺を意識高い系の人達の集まりによく連れていってくれてたよな。 正直俺はお前らが何を話しているのかさっぱり分からなかったし、興味も持てなかったよ。けどお前がすごい楽しそうにあいつらと話しているのを見るのは悪い気分じゃなかったんだ。俺はお前が誰よりも夢に向かって努力をしていて、口先だけの奴じゃないってよく知ってたからな。 お前から新しい上司の話を聞いたのは丁度去年の今頃だったな。あのときも麻布のバーで、俺らの収入にはとても見合わないようなウィスキーをロックで飲みながら、お前は俺に言ってたよな。「今度俺の課に新しく来る上司が本当にスゴイ人なんだ!大手IT企業で働いていたときにいくつもの大型プロジェクトを成功させて、うちの社長が三顧の礼で迎えたらしい。そんな人の下で働けるなんて俺は本当にラッキーだよ!」 お前が興奮しながら話すもんだから、俺まで不思議と嬉しくなったよ。 俺の上司ときたらもう全然ダメで、ヤフーニュースを見てるか居眠りしてるかのどちらかだから真面目に仕事をするのがアホらしくなってくるよ、なんて話を俺がしたら、お前は「もっと自分自身に厳しくなれよ!このままだと10年後には俺とお前の間には埋められない位の差ができちまうぞ!」って叱ってくれたっけな。正直ちょっとうざかったけど、お前の気持ちは有り難かったよ。 お前がその新しい上司の下で働き始めてから3ヶ月位経った頃だったか、いつものバーでいつものウィスキーを飲みながら、お前は俺に言っていたな。「俺の上司は俺の未熟な点を全部見抜いてるんだ。この3ヶ月で思い知らされたよ。俺がどれだけ口先だけの人間だったか。本当にめちゃくちゃ勉強になる」 俺はお前のことを一度たりとも口先だけだなんて思ったことないって言ったら、お前は「あの人の言うことは全部正論なんだ。グゥの音も出ない。期待に応えないと俺は見捨てられちまう」って厳しい顔して言ってたな。俺はお前のその仕事に対する姿勢に感服したよ。俺なんてアホな上司にくだらない仕事を任されて、つまんねーなぁ、なんてボヤくだけの毎日だったから。お前みたいに自分に徹底的に厳しくなれる人間がきっと日本を変えていけるんだろうなぁ、なんてボンヤリ思ったよ。
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