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第3章 第二試合
男子の試合が最終クウォーターに突入した、と山本先生が伝えに来た。さくらの号令でアップを切りあげ、明智さんのもとに集まった。明智さんはTシャツの肩をまくり上げて、たくましい二の腕をあらわにした両手を腰に当てている。
「元気ないね」
明智さんの第一声だった。高畠中との試合が終わってから、明智さんはほとんど言葉を発していなかった。そう思いついて、明智さんこそ、先ほどの敗戦が応えていたのではないかと遥は疑った。続く明智さんの問いかけは、遥の疑念を後押しした。
「さっきの負けが応えてる人」
タブーに触れられたように、明智さんを取り囲む皆がしんとした。明智さんは自分の顔のあたりに右手を上げて、皆に挙手を促しているが、応じる生徒は誰もいない。
「さくら、どう?」
生徒の顔を見まわしてから、明智さんは狙いをさくらに定める。訊かれて、さくらがぐっと言葉を呑むのが遥には分かった。
「佳奈は?」
「はい」
佳奈は肯定なのか、呼びかけに対する単なる応答なのかよく分からない返事だけして、あとは黙った。皆の間に、沈黙が漂う。
「ぶっちゃけ」
明智さんが、畏まった状況に合わないくだけた表現でその沈黙を破った。
「応えたなぁ、私は。さっきの負けは」
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