第2章 第一試合

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 ボールは十番の右手を越えて、いちごの左手に制止される。いちごはそのまま器用にボールを床について、ドリブルへと持ち込む。五番が佳奈のマークを外れて、前に出る。佳奈がパスを受けやすいようにゴールポストの左側にポジションを移す。けれど、いちごは佳奈とは五番を挟んだ逆の方向へのパスを選択する。そこにはさくらが走り込んでいる。投げ上げられたボールを空中でキャッチして、そのまま、下からボールをゴールに向けて ささげるようにして、レイアップシュートを決めた。  歓声が応援席から巻き起こった。格好の良いシュートは、何よりチームを活気づける。チームが流れに乗りつつあったが、高畠中も負けてはいない。その後は押しつ押されつのシーソーゲームが続いた。タエチャンがシュートを決めれば、佳奈が、ゆっちんが、さくらが、遥がシュートを決める。第二ピリオドの途中で、ようやく遥はタエチャンからボールを奪うことに成功したが、逆もやられた。タエチャンのマークは、遥がボールを持った時より、パスを受けるときの方がきつかった。その長い腕を、タエチャンは状況に応じて器用に使った。どうしても遥にボールを回させたくないときには、その長さを存分に駆使して遥へのパスが困難であることを誇示したし、時には能ある鷹の爪のようにわざと隠して、パサーからパスが出ると、急にその存在を明らかにしてインターセプトしようとした。わずかでもボールに触れられれば、その大きな身体を利して、遥に圧迫を加えた。タエチャンがマークについてから、遥がボールに触れられる機会が少し減った。対するタエチャンも、第一ピリオドに比べて明らかにボールを支配する時間が減ったが、そのシュート成功率は驚異的だった。遥はタエチャンと勝負しながら、今、自分は将来の日本の大エースとマッチアップしているのだと思ったりした。遥はタエチャンの行く末について考えた。彼女は間違いなく高校になっても活躍し、そしてやがては、実業団のスター選手として、女子バスケットボールリーグを背負って立つ人間になるのだろう。そういう選手と、今、自分はマッチアップしているのだと思うと力が湧いた。負けてたまるか、と気合を入れて、上がりがちになる腰を落とした。
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