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遥はよくタエチャンについていけるようになった。何カ月も一緒にプレーした仲間のように、彼女の癖が、傾向が、体の芯でとらえられているような気がした。唯一、リーチを活かしたパスワーク、シュートシーンだけは抑えることができなかったが、もう少し一緒にプレーすれば、事前の動きでその芽自体を摘んでしまうことも可能になるような気がした。
けれど、時間は無尽蔵にあるわけではなかった。徐々に、試合の終了が近づいていた。さくらも、ゆっちんも、佳奈も、いちごも、そして遥も、自身の能力をフル活動させて闘ったけれど、相手も総力を尽くして攻め込んできた。わずかな点差が、少しずつ埋まり、残り三分のところで逆転された。すぐに逆転し返したけれど、また逆転された。
未来であった結末がもうすぐそこに見え始めていた。負けてもいいよ、と明智さんは言ったけれど、この試合に負ければ全国大会出場の望みがほぼ絶たれるということは、おそらく皆が理解していた。米沢中学校はこのチームに二十点差をつけて勝っているのだ。この試合に負けたら、米沢中にそれ以上の点差をつけて勝たなければ、決勝トーナメントには勝ちあがれない。誰も口に出さないが、それはなかなか非現実的なことだった。
負ければ、終る。もう一試合、試合は残るが、未来は絶たれる。言わば背水の陣に挑む意識が、皆のプレーにどう影響したかは判断が難しいところだった。それは一方で限界に近付きつつある皆の体力を鼓舞する精神力となって、タフなプレーを最後まで続けさせた。一方で、それが焦りとなって判断を誤らせ、状況を見誤らせて、相手に付け入る隙を与えた部分もあった。高畠中にはそのプレッシャーはなかった。彼女たちにはすでに先の試合はなかった。彼女たちにあるのは和達中とのこの試合だけであった。タエチャンは、眼の前の遥のことだけを見据えているようにみえた。遥もタエチャンだけを見ていたつもりだったが、チームとしては、やはり次の試合のこと、そしてその先のことが意識の片隅にちらついていた。
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