第2章 第一試合

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 遥はしばらく放心状態だった。コーチの明智さんは、「お疲れさま」とだけ皆をねぎらって、撤収を指示した。試合会場を出て、二階の観客席へと上がると、踊り場のところで応援団の拍手に迎えられた。 「いい試合だったよ。惜しかった。最後まで負けてなかった」  誰かがそう言って選手をねぎらい、賛同の言葉が遠近に続いた。堪えきれず再び泣き出した佳奈が両親に包まれ、兄弟、親族に包まれる。隅さんがさくらの頭を撫で、ゆっちんの頭を撫でて、遥の頭にその手のひらが届く。 「負けちゃった」  さくらが隅さんに向かって呟くように言う。そこには悔しさも、怒りも、悲しさも、どんな感情も込められてはいない。ただ事実だけが口から転がり出ただけといった感じだ。 「でも、最後までよく戦った」  隅さんが、さくらに返す。さくらは一度だけ曖昧に頷き、それから両親に呼びかけられて、隅さんのもとを離れた。ゆっちんも、すでにお母さんの右手に抱きかかえられている。隅さんが遥の目を見て、「きっと、次につながる」とだけ言った。
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