第2章 第一試合

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 初めは何の感情も湧きあがってこなかった。さくらが隅さんに「負けちゃった」と報告したときの口調と似ていると思った。感情がともなわない。呆然自失。何も考えることができない。  それが、床に寝転がって、隅さんのマッサージを受けているうちに、ようやく少しずつ戻ってきた。  初めは疑問からだった。  たった一点。あの一点の差を埋めるには一体どうすればよかったのか。 「ほら、力抜いて」  隅さんに注意されて、埋められなかった一点の差について考えただけで、全身に力が入ったらしいということに遥は気付いて、再び敢えて力を抜いた。  のぶ子、ちゃら、おまけ、隅さん、そして明智さんが、試合後のレギュラー陣の体を癒してくれる。男子の試合が終わればまたすぐに今度は米沢中との試合が始まる。それまでの間に、試合で限界まで酷使した体に休養を与えてリフレッシュさせ、再び戦闘モードに整えなくてはならない。  さくらの最後のシュートのシーンが遥の瞑ったまぶたの裏に蘇る。いつも通りのさくらのフォーム。あのシュートが入っていれば、少なくとも延長戦に持ち込むことができた。そうは思っても、そこにさくらを責める意図はない。おそらくチームの誰も、さくらの果敢なミスを責めないだろうし、さくら自身も、自分の最後の失敗を、反省こそすれ責めないだろう。だからこそのキャプテンだし、このチームはそういった意味で、さくらのチームなのだ。
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