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むしろ、遥の意識はあのシュートを決めさせてくれなかった天を恨んだ。たった一センチの差だった。ボールが一センチメートル内側に寄っていれば、おそらくあのシュートは決まっていた。ひたすら全国大会を目指して愚直に練習に取り組んできた。東北大会の前には神社に行って、必勝の祈願もした。遥は地元の八祖神社の森深い境内を思った。大人の顔して、でんと構えて、それでいながら、願い人たちの願いを冷静に聞き分け、時によっては撥ねつける、心の見えない神様の姿を漠然と思い描いた。それから、ふと、母親のことを思った。遥は必勝祈願と同時に母親の回復も祈っていた。もし、万が一、母親が今の試合を見ていたとしたら、果たしてどんな感想を、どんな励ましの言葉を、遥に投げかけてくれただろうか。
隅さんが、ぽんと遥の後頭部を叩いた。ひっくり返って天を仰いだ遥の目に、遥自身驚いたことに、涙があふれた。そういえば、と遥は思った。遥は今までに一度だって、自分の試合を、バスケットボールをする姿を、自分の母に見せられたことはないのだ。
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