第2章 第一試合

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 一度涙があふれてしまうと、その涙が呼び水となって、あとからあとから涙があふれた。遥は横向きになって顔を隠して泣いた。嗚咽が遥の喉元に込み上げる。こんなことは初めてだった。練習後の体育館で、試合後の会場で、どこでだって、遥はチームメイトに涙なんて見せたことがなかった。隅さんが遥の背中でおろおろとしていた。ひとしきり泣いてしまうと、少し気分がすっきりとした。追って、すぐに羞恥心が込み上げてくる。涙を手のひらでぬぐって、顔を隠したままで自分の荷物を探す。誰かが遥の手にタオルを渡してくれる。顔を拭いてからその誰かを見ると、さくらだった。負けん気がむくむくと頭を擡げる。ゆっちんが、ともに泣いてくれそうな表情で、けれど涙は流さず、遥のことを見守っている。佳奈はみたび自分も泣き出している。 「佳奈」  遥は恥ずかし紛れに佳奈を叱った。 「まだ一試合残ってる」  佳奈が泣き顔のままあんぐりと口を開けた。  どっと、二人の周囲に笑い声が上がった。
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