第2章 第一試合

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 男子の試合の第三ピリオドが終わろうとしていた。  観客席で父兄に混じって軽い昼食を採った生徒達が、誰が声をかけるでもなく、席を立ち、父兄と離れて、そのエリアの出口へと向かう。そこには立って男子の試合を眺める明智さんがいる。明智さんは皆が自分のところへ集まってくるのを知ってか知らずか、両手を組んで天に突き上げ、一つ大きく伸びをした。  いずれにしても、あと一試合だ、と遥は思う。次の試合が終われば、今日のところはひとまず病院に駆けつけることができる。それまで母親が生きながらえることだけを祈って、もう母さんのことを考えるのはやめよう。そう思うそばから、もし母親が生きながらえて、それでも危篤状態が続いていたなら、果たして明日、自分はこの場に戻ってくることができるだろうか、と不安を覚える。  負ければ、今日で帰れる。そう考えて、遥はその思いつきにぎくりとした。ふと、先ほどの試合も、自分はわざと力を出し切らなかったのではないだろうかという疑いが頭をもたげる。そんなことはない。試合の最中は母親のことは頭になかった。自分は何とかタエチャンを打ち負かそうと、頭と体をフル回転させて頑張ったのだ。そう自己弁護するそばから、また別の反論が頭をもたげる。けれど、潜在意識の中で母親の存在がブレーキとなった可能性までは否定しきれないのではないか。  遥は、遥が病気の母親を家に残して部活に出かけるときの、母の恨めしそうな表情を思い浮かべる。でも、最近では、体調のいいときには、怪我しないでね、などと出がけに遥に声をかけてくれることもあった。その声かけに、その時々の遥はまた軽い反発を覚えた。どうせ声をかけてくれるなら、もっと前向きな言葉をくれればいいのに。
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