門の天井にそれはいた

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…その様子を加津五郎は見ていた。 ゴミの山に立てかけられた状態で 立ち去っていく二人の姿をじっと見ていた。 腹の中にはまだ食った鼠の肉が残っていて、 加津五郎はまだ動けることを感じていた。 そう、加津五郎は思い出した。 自分が畑に立っている時に ニタニタと笑う坊主が藁である自分の口や腹の中に 肉をしまっていたことを。 以来、肉の味を覚えたことを。 以来、動けるようになったことを。 以来、獣を襲えるようになったことを。 以来、人を襲えるようになったことを。 そして、他の坊主たちに加持祈祷と称した 燻し煙を吸わされ、門の屋根裏に押し込められたことを。 加津五郎は思い出していた。 全てを思い出していた。 しかし、そこに恨みはない。 あるのはただ、飢えだけ。 腹の中で消化されていく鼠の味だけ。 …腹が、減ったな。 その時、加津五郎の一本だけの足。 いや、足に当たる支柱がぼきりと折れた。 地面に叩きつけられる加津五郎。 崩れ落ちていく案山子。 その体からブワリと黒い粉のような虫が飛び出した。 羽の生えた蟻のような虫。 人の味を覚えた昆虫。 そして、ひと一人分はあろうかという虫の群れは、 抜け殻である案山子を残し、木々を抜け、人里の方へと …ネオンきらめく街の方へと飛び立っていった。
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