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ぶつかってくる吐息が、また僕の唇を圧迫するようだった。
「そういうわけじゃないけど」
ここまできたら、据え膳食わぬは男の恥、と思っていた。身体のほうは、とっくに阿部さんを受け入れる準備を完了していた。
だけども、僕の語調は弱々しい。
「……こういうこと、よくやるわけ?」
「まさか。梅原が初めて」
目の前で、薄い唇がゆっくりと湾曲する。まだ完全にアルコールが抜け切っていない頭では、それが嘘なのか真実なのか判断できない。
僕は、どうやら、ヤキモチを焼いているらしかった。
自分だって正規の相手ではないくせに、同じように阿部さんに誘われてこの家に上がり込む他の男の存在があるのだとしたら、許せなかった。
だけど、不思議なほど、旦那への嫉妬はなかった。
阿部さんがこういうことをしている時点で、イコール旦那への愛情はないものだと、頭が都合のいい解釈をしていたのだろう。
「いいこと教えてあげようか」
そう言う阿部さんは、一向にその位置から身体を退けようとしない。僕らは永遠にこのままなんじゃないかと、そんなことを思って恍惚とした。
「いいこと?」
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