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阿部さんは、芽生えた愛が腐るのが怖いのだ。
人は、長く付き合えば、どうしたって馴れ合う。新鮮さが失くなる。
もっと高尚なものに変わることは、もちろんあり得る。出会ったばかりの初々しい想いは消えても、形が変わり永遠に愛し合える夫婦だっている。
だけど、阿部さんたちにはそれができなかった。腐ってしまった。阿部さんは、もう二度とそんな想いを繰り返したくないのだ。
阿部さんは正解だと告げる代わりに、黙って僕に口づけた。
「梅原。崇高だった愛が萎れていくのはみじめなことだよ。近づきすぎなければ、きっとそんなことはないのにね」
僕には結婚どころか、同棲の経験すらない。
もしかしたら、「愛」というものの本質がわかるほど、本気で人を好きになったことなどないのかもしれない。
だから、阿部さんに偉そうに意見することも、責めることも、そんな権利はない。だけど。
「……でも、僕は、阿部さんのことが」
阿部さんは、人差し指を立てて僕の唇に当てた。
「梅原。もし今夜のわたしたちの気持ちが本物なら、守る方法があるよ」
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