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「愛してるよ、梅原」
玄関で靴を履く僕の背中に、阿部さんは言った。
ネクタイの角度を直しながら僕が無粋な顔で振り向くと、頬に手を添えて、キスをしてきた。
最後のキスだ。
「わたし、ずっと死んでるみたいだった。梅原のおかげで、これからは、一生この愛を抱いて生きていける」
「……別の男でもよかったんだろ?」
子供じみたセリフだ、と思った。恥ずかしくなった。
だって、僕は知っていた。
阿部さんは、僕じゃなくてもいいならそうハッキリ言っていただろうし、そもそも最初から声をかけてくることはなかった。
阿部さんは心の底から嬉しそうに、そしてイタズラっぽく笑った。ネズミみたいな前歯がのぞいた。
「選んだ男が当たりである確率って、一般男子がアイドルと付き合える確率より低いんだろうか。高いんだろうか」
「……もう行くよ」
僕は阿部さんに背中を向けた。
ここで阿部さんが引き留めてくれる確率だったら、きっとゼロパーセントだ。
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