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「あぁ、それはね、簡単だよ。他に好きな人がいたんだって」
阿部さんは言った。昔懐かしい、超ロングセラーのタバコの形を模した細長い駄菓子を、前歯でポリポリとかじりながら。
大きな瞳は猫みたいだけど、飛び出た二本の歯はネズミみたいだ。まぁまぁ強度がある菓子なのに、ものともせずに噛み砕く。
「うん、その通り」
スパン! と僕は平手で膝を打った。
阿部さんの口調は、僕をフッた女の子とは似ても似つかないざっくばらんなもので、だからなのか僕にはとても好感が持てた。
「だって、そのすぐあとに、カラオケサークルのホスト風イケメンと付き合い出したからね」
僕は会社帰りに寄った居酒屋で食べた鶏の唐揚げの筋が、奥歯の間に挟まっているのが気になっていた。その子供向けタバコ風菓子を、爪楊枝代わりにしてつついていたけども、取れるわけがない。
「ほらね、そうなんだよ」
予想が的中して、阿部さんは嬉しそうだ。
紺色のワンピースの裾から半分ほど露出した両足は、夏だというのに透き通るように白い。それを、植え込みに腰かけたままバタバタとさせた。
ビーズがふんだんに付いたサンダルを履いた指先は、やけに華奢。トラッドシューズに包まれた僕のガッチリした足先と比べると、なんだかとても貧相に見える。
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