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駅前のロータリーは、それなりに人で溢れていた。
深夜に近い時間であるのにもかかわらず、仕事から解放されたサラリーマンや、年中放牧されっぱなしのような学生たちがうろついていた。
今日が、連休前の金曜日であるせいも大きい。
昔ほどの盛況は過ぎた、でも、なかなかどうして廃れない田舎の祭りと少し似ていた。
「だったらさ、正直にそう言えばいいじゃないか。なんでそんな回りくどい言い方をするんだ」
なかなか取れない唐揚げの筋のしつこさも手伝い、僕は何年ぶりかで思い出した悲しい過去への怒りを再燃させた。
そんなの、ついさっき会ったばかりの女性にぶつける不平ではないなんてことと、爪楊枝代わりにするにはその菓子は太すぎるということは、酔いが覚めたずっとあとになってから気づいたことだ。
「そりゃ、ずるいからに決まってんじゃん。あのね、女って、別に自分が好きじゃない相手からも嫌われたくないものなの。ずるいんだよ」
阿部さんはこぼれそうな目をさらに見開いて、僕にぐっと詰め寄った。街のネオンや、点滅する信号が、その透き通った瞳の中に映り込んでいた。
それはとても幻想的できれいで、そして阿部さんの少し攻撃的な顔も魅惑的できれいで、僕はドキドキして、しばし息を止めて見入った。
「阿部さんもずるいんだ」
しばらくしてからそう尋ねると、目の前の口角がニタリと上がった。
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