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「梅原。女について勉強させてあげようか」
「勉強?」
阿部さんがどんな思惑でそう言ったのかなんて、僕には知るよしもなかった。
相当アルコールが回っていた僕の頭は、根拠のない期待を見出だして、下半身がジワリと熱を持った。
「梅原、したいんでしょ? わたしもしたい」
阿部さんが直球を投げかけてきて、あまりの潔さに、僕は煩悩を悟られた気恥ずかしさを感じる前に、声を立てて笑ってしまった。
最初から、この人はそうだ。
初めて会ったときも、改札を出てきた僕に、植え込みから臆面もなく声をかけてきた。
「ねぇ、よかったら、一緒にココアシガレット食べない?」
そう言って、サンダル履きの足をバタバタさせた。
「ねぇ、知ってる? 一般の男の子がアイドルと付き合える確率って、無名の高校の野球部が甲子園で優勝できる確率とだいたい同じなんだって」
「だから?」
「そんなこと、別にどうだっていいってことよ。それよか、例えばここで、たまたま出会った名前も知らない君に対して、一緒にお菓子を食べたいなってわたしが思ってしまったことのほうが、よほど重要でしょ」
そういう声のかけられ方は、新鮮だった。
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