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気がついたら、僕は彼女が座る植え込みの隣に腰を下ろして、無関心に通り過ぎゆく人々を見送りながら、彼女がくれた駄菓子を口に入れていた。
阿部さんは僕と同じくらいの歳にも見えたし、うんと年下にも見えた。
年上とはまさかにも思わず、しかも僕と一回りも違うと知ったときには、何度もその頭のてっぺんから爪先までを眺め倒した。
本当だしと怒ることもなく、嘘よとおどけることもなく、ただ意味深に微笑む彼女を見て、そうか、これが悪い女ってやつか、と思った。
火傷するかもしれない予感に包まれても、僕はなぜかその場を立ち去ることができなかった。
あまつさえ、自分の情けない過去の傷痕まで話して聞かせた。
理由はわからない。だけど、なぜかこの人に、洗いざらい僕の全部を知ってもらいたい気持ちになったのだ。
「どうする? 梅原」
阿部さんは黒いビー玉みたいな目で、あいかわらず強引に僕に詰め寄ってくる。
「どうするって」
笑うしかない。
「そういやさ」
と、阿部さんが思い出したように瞬きをしはじめた。
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