17人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、植え込みのへりに置いていた僕の手の甲に、自分の手のひらを重ねた。しっとりとして、そして、少しだけひんやりとしていた。
宇宙から星を盗んできて散りばめたみたいに輝く瞳が、僕を捕らえる。
「気に入ったよ、梅原。おいで。家でコーヒーでも飲もう」
心臓がガクンと激しく振動して、僕はすぐに返事ができなかった。
とっさに舌で歯をまさぐる。唐揚げの筋は、まだ取れずにそこにあった。
駅から五百メートル強ほど歩いた、コンビニの横のレンガ色の二階建てアパート。
ナイロン袋に入った新発売のイチゴプリンは、阿部さんが食べたいと言ってコンビニで買ったものだ。それを二個入れた袋を手にさげた僕は、室内に足を踏み入れた直後、死ぬほど後悔した。
ブルーとピンクのお揃いのスリッパ。傘立てには、傘が二本。リビングに入ると、色違いの座椅子が二つ。
あげくの果てには、壁に結婚証明書なるものが掲げてあった。
僕より年上で、とてもきれいなこの人が、ひとりきりで暮らしているわけがなかったのだ。
バケツの水を頭からザブリとかぶったように、酔いが一気に覚めた。
僕が泣きそうな目を向けると、阿部さんは青いほうの座椅子を勧めながら、「何よ。わたし、独身なんて言った?」なんて無責任なことを言った。
最初のコメントを投稿しよう!