ココアシガレットが甘くない

8/17
前へ
/17ページ
次へ
「浮気したいってこと?」  声がうわずる。 「浮気じゃないって。梅原のこと、好きだもん。好きになった」  阿部さんは宣言通りコーヒーを淹れようと、キッチンへ消える。 「だ、旦那さんは?」 「出張。明後日まで帰ってこないよ」  そうは言ったって、その座椅子に腰を沈める気になんかなれない。 「何してんの。座りなよ」  戻ってきた阿部さんの手にあるマグカップは、二つとも装飾がない殺風景な白いもの。青とピンクだったらどうしようと思っていた僕は、ちょっとだけ安堵した。  とはいえ、どこからか(あるじ)に見られているような居心地の悪さは拭えない。 「自由って言うより、む、無神経すぎない? 最初から思ってたけど」  突っ立ったままの僕が発したセリフに、阿部さんは特別意外そうな顔をしなかった。テーブルにマグカップを置いて、座椅子の上に正座する。 「まぁ、旦那がいるのに梅原を誘ったことは、そう言われてもしかたないけど」 「旦那と暮らす部屋で、他の男を好きだなんてよく言えるよ」 「じゃあさ」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加