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阿部さんは、ままごとで使うみたいな小さなテーブルに頬杖をついて、僕を見上げた。
「わたしに旦那がいるって知ったのに、なんで梅原は出ていかないの?」
僕は言葉に詰まった。
「最初から無神経な女だって思ってたなら、なんでついてきたのよ?」
大きな猫の瞳は、僕の心の奥底まで見透かすようだった。
僕が「阿部さん」という女性の身体に、わずかどころじゃない興味を抱いていることなんて、阿部さんはとうに気づいている。
酔っ払っていた僕が、最初から「その可能性」ありきで阿部さんの誘いに乗ったことだって。
根負けしたような形で、僕はそろりと座椅子に腰を沈めた。
立ち膝になった阿部さんは、ぐんと上体を乗り出してきて、僕の唇に自分の唇を押しつけた。
テーブルの上に乗せようとしていたナイロン袋は、はずみで大きく揺れ動く。飛び出したイチゴプリンが、床に転がった。
侵入してきた生温かい舌に、先程の駄菓子のかすかな甘味を感じたとき、僕は慌ててその舌を舌で押し返していた。
唇を離したものの、至近距離から顔を動かさない阿部さんは、不機嫌になるどころか、むしろ愉快そうに言った。
「やっぱり旦那がいる女はだめか」
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