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ココアシガレットが甘くない
「塩素系なんだよね、梅原くんって」
そう言って、交際を断られたことがある。大学に入学した年のことだ。
各地の蕎麦を研究する名目のサークルの、月一で催される交流会、つまりはただただ美味しい蕎麦を食べましょうという集まりの帰り道だった。
「すごく優秀なのはわかる。だけどさ、アクが強いって言うの? 刺激を放ちすぎるって言うのかな」
その子は言った。ゆるやかにカールした色素が薄い髪を、自身の指でくるくるともてあそびながら。
すごく優秀、はいい。褒め言葉だ。
だけど、そのあとのアクが強いだの、刺激を放ちすぎるだの言われる理由は、皆目と言っていいほど見当がつかなかった。
その子はダメ押しにこう言った。
「わたしって、また違う異彩を放ったタイプなんだよね。何て言うの? 酸性って感じ? ダメでしょ、塩素と酸性。化学反応起こしちゃう」
意味もなく身体をくねらせてそう言った彼女は、確か理学部だった。
だから、そんな例え方をしたのかもしれないが、君のほうがよっぽど性格に問題がある、とそのときの僕は急転直下で思った。
彼女のことを想って夜も眠れず悶々とするくらい、とても好きだったはずなのに、僕の恋心はいっぺんに冷めてしまった。
まるで風見鶏が強風にあおられて引っくり返るみたいに、清々しいくらい、気持ちが明後日の方角を向いた。
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