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朝日が眩しい。
チャペルの鐘が六回、朝の六時を報せている。階下ではそろそろ街が動き出す時間だ。
「真昼さん、好きでした」
「私も玉井さんが好きだったわ」
真昼の掌が玉井真一の頬を優しく撫でる。彼も同じように彼女の頬を撫でる。それはまるでお互いが現実にいた事をたしかめるように愛おしく撫でた。
「真昼さん、僕たちもう少し早く出会っていたら」
「何も変わらないわ」
「変わらない」
「あなたは郵便局の窓口の男の子で、私は年上の事務員でしかないわ」
「そうですか」
「何も変わらなかった」
「そうですか」
「そうよ」
真昼は玉井真一の背中を見送ると部屋の鍵をカチャリと閉めた。チェックアウトを境に二人は全くの他人となった。玉井真一は手を振ることもなく雪の降る歩道に姿を消し、真昼はチャペルを見上げながら車のエンジンを掛けた。
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