ぬくもり

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 土鍋の蓋の穴から、白い湯気がごうごうと出ている。鍋の中には白菜、しいたけ、にんじん、鶏肉、豆腐……など。冷蔵庫にあったものを適当に放り込んだ。だって、鍋って具が多い方が美味しいから。出汁は店で売ってある鍋の元を使った。その方が手っ取り早くて良い。 「ただいま」  彼が帰って来た。ぐつぐつと鳴る鍋に視線を送った彼は、嬉しそうに笑った。 「今日は、鍋?」 「そう。外、寒かったでしょ?」 「寒かった。だから嬉しい」  靴を脱いで部屋に上がった彼は、コートを脱いでハンガーに掛けた。コートは少し濡れていて、外が雪だと言うことを伝えている。こんな寒い中、お疲れ様、と思わず彼に抱きつくと、彼は一瞬驚いた顔をした。けれど、すぐに抱きしめ返してくれる。嬉しい。  鍋のぬくもりもいいけど、自分には彼の与えてくれるぬくもりが一番だ。   「ね、鍋食べたらアイス食べよう? 買ってあるんだ」 「この寒いのにアイス?」 「炬燵で食べたら美味しいよ」 「ふふっ。そうかもな」  火を止めて、テーブルの鍋敷きの上に土鍋を置いた。  ぐつぐつと具材が煮えている。出汁の良いにおいも手伝って、腹の虫が鳴いた。 「早く、手、洗ってきてね!」 「はいはい」  二人分のご飯をよそって、先に椅子に腰掛けた。ちょっと具を入れ過ぎたかも……と思ったけど、食欲旺盛な彼だから大丈夫だろう。自分も結構、食べる方だし。考えていると、彼が戻って来た。 「手、洗った」 「うがいは?」 「した……ふふっ。母親みたいなこと言うなって!」  笑いながら、彼も席に着いた。大きな手が並べられた箸を掴む。 「いただきます」 「いただきます」  手を合わせてから熱々の鍋から具材を取る。味はきっと……美味しいよね。   「今日、課長がさ……」 「この前、言ってた人?」 「そうそう。それが……」  他愛も無い話に花が咲く。冬の寒さは苦手だけれど、こういうあったかい過ごし方なら良いものだな。  鍋のぬくもり、彼のぬくもり。二つに包まれながらの夕食は、とても幸せなものになった。
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