愛しのエンカウンター

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愛しのエンカウンター

 暖冬という言葉がピッタリだった今年の冬。この時季は毎年、肌の上に直接身につける肌着を二、三枚は重ねる寒がりの私が、今年は一枚で事足りた。  そんな暖かで穏やかな冬を越えて、私達夫婦は結婚してもうすぐ二十年目の春を迎えようとしていた。  幼い頃に母を乳がんで亡くした私は、それからずっと父と二人で暮らしてきた。  父はとても優しい人で、母のいない私に、寂しくて不自由な思いをさせないようにと家事に手を抜くことは一切なかったし、毎朝早起きしてキャラ弁だって作ってくれた。  高校生になって「もう恥ずかしいから普通のにして」と跳ねつけても、父はウサギさんリンゴやタコさんウインナー、ハムを器用に巻いて作ったバラハム、それに小学生の頃の私と一緒に開発したハート形のたまご焼きを、お弁当の隅っこに入れ続けた。  陽だまりを集めたような人。そんな優しい父が大好きだった。でも大好きだった父は私が大学三年になったばかりの春に、膵臓を患って突然逝ってしまった。再婚もしないで、生涯、私の母だけを愛して逝ってしまった。そんな風に終わった父の人生を、短くて不幸でかわいそうだと言う人もいるだろう。でも父の人生は誰にでも胸をはって誇れるような美しいもので、心から愛する人と巡り会えて幸せなものだったと、私はそう思う。
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