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シズクから『会わないか』と誘われてから四日。
新一は一人、煙草を吹かしながら突っ立っていた。
近年、喫煙者に厳しい世界となったもので、指定された場所以外での喫煙は罰金とされている。
そういった経緯で、現在新一はまるで囚人のように狭苦しい空間で、見知らぬ社会人達と顔を合わせながら煙草を咥えていた。
外回りの帰りなのだろうか、ストレスが溜まっているらしい社会人の男は、眉間に皺を寄せながら煙草に火をつけようとしている。
どうにもガス切れのようで、火花が散るばかりで火が付く気配がない。
「どうぞ」
そう言ってライターを差し出すと、日本人特有の片手拝みしてライターを借り、火をつける。
「すみませんね」
「いえ」
短いやり取りをした後、スマホが揺れていることに気が付いた。
画面を見るとそこには見慣れない番号。
もしやと思って、煙草の火を消して、灰皿へ捨てながら外へ出る。
そのまま通話ボタンを押す。
「もしもし」
『あ、えっと……シンイチくんの電話でよろしいでしょうか』
聞こえてきたのは若い女性の声。
スマホには数名の女性のアドレスがあるが、その誰でもない。
「ええ、そうですけど……シズク?」
『あ! よかったぁ~……違ったらどうしよかと思ったよ、何度も確認しても、知らない番号へかけるのは勇気が要るよね!』
以前やり取りしたメールとはまた真逆の印象の声。
一言でいえば、中学生から高校生くらいの子供である。
(やっぱり、メールでの口調は緊張して形式ばった者になったのか)
そんなことを考えながら、新一は通話に意識を向ける。
「今どこ? さっきまで喫煙室にいたからそっち行くよ」
『じゃあ、ベターにハチ公前で!』
「……本当にベタだな」
『いいじゃんかー、私だっていっちょ前に女の子っぽい待ち合わせしてみたいんだよ!』
通話越しに聞こえる不機嫌そうな口調に、思わず新一は苦笑しながら歩くのだった。
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