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「いつでも出れるぜ」
「ありがと」
その男は彼女に対して非常に友好的な態度を見せる。
(シズクはどこぞのお嬢様なのか? 随分前にはやったオタクと令嬢の恋愛ドラマじゃあるまいし)
すると男は、新一をちらりと見るなり、獰猛な獣のような笑みを浮かべた。
「よろしくな」
「は、はい」
あれよあれよというまに、新一は車に乗り込み席へ着く、そして現在その正面にシズクがニコニコと上機嫌なままで座っている。その隣には先ほどのおっさんもいる。
改めてその男をよく見る。
黒のスーツに、赤いワイシャツ。
髪がうっとおしいと言わんばかりに、オールバックに流したややブラウンカラーの髪。
まるで映画などで出てくるSPのような体型と、鋭い眼光でワイルドという表現が良く似合う。
余談ではあるが、この車、テレビや映画でよく見る、VIP御用達の内部が対面式になっているタイプの車だった。
日本で慎ましやかな生活をしていれば、まず乗る事はおろか見る事すらない異空間のような車の中で、新一は一人混乱の渦に飲まれていた。
(どういうことだよこれ!? このおっさん誰!? なんで俺拉致られてんの!?)
車の中は非常に快適な温度で保たれていて、クーラーボックスと思わしき場所からシズクがスポーツ飲料を取り出し、こちらへ手渡してくる。
「どうぞ」
「ハ、ハイ、ドウモデス」
「……どうしたんですか?」
「イエナンデモナイデス」
彼が固い口調で受け答えしていると、それを見ていた先ほどのおっさんが雫をちらりとみて顔をしかめた。
「シズクよお、まさか説明してなかったのか? だとしたらシンイチが不憫だぜ。初めて会った女に突然黒塗りの高級車に詰め込まれたあげく、俺みたいな男も同席してるんだぞ」
彼が新一の心を汲んで彼女に告げると「あ」と小さな声で溢した。
すると、おっさんはさらに大笑い。
膝をバシバシと叩いている。
「も、もう! 仕方ないじゃない! やっと新一君と直接会えるって思ったら、わくわくしちゃったんだから!」
「おーおー、シンイチもたいへんだな? こんなお転婆姫に気に入られちまってよ」
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