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だが、同時に新一は納得してしまった。
あの場にいた全員は『真剣』だったのだ。
『仮想』と称して、地形や状況を事細かにZIPファイルでやり取りして、それを見ながら有効な手段をあーでもない、こーでもないと日夜、それこそ夜が明けるまで語り合う事があった。
その取引した情報は非常にリアルで、現地背景から気候など事細かに設定した上で会議が始まる。最初こそ不審に思ったが、その出来の良さに気付けば考察する楽しさに忘れてしまっていた。
翌日バイトがあるというのに、その彼らの必死さに思わず抜けるに抜けられず、新一は共に朝を迎えて、ぎりぎりまで語り合ったことも何度もある。
それでも答えが出ずにバイトに向かい、休み時間に掲示板を覗くとまだやっていたりもするのだ。
その光景をみて、休み時間をつかってレポートの真似事のようなものを作って、帰宅後彼らに送ってみたら、何やら感謝されたり、そこからさらに議題が膨らんだりもした。
昔からこういった仮想的な状態に対する対処を構想するのが好きだった。
その理由は一重にファンタジーが好きだったからだ。
もし、魔物が現れたら……そんな妄想を膨らませ、それらを如何に現実的かつ有効に対処するかという、一種の空想科学を楽しむのが好きだったのだ。
あの掲示板でのやり取りはその延長線で、実際にダンジョンと言う、実害のある脅威が生まれた事で、より一層真剣に語り合った。
「じゃあ、なにか? 俺は知らんうちに各国のお偉いさんと文通してたってのか?」
「そうよ、ちなみにあなたが以前送ったレポート、あれねアルゼンチンのエリア型討伐に非常に役立ったって大統領が喜んでたわよ」
(勘弁してくれ……俺みたいな、高卒の書いたレポートもどきがアルゼンチンのダンジョン討伐に貢献しただと? そんなことがあるわけ――)
「そんなことあるわけない?」
「…………」
シズクが新一の考えを見透かすように、言葉を繋げた。
思わず驚愕の表情で彼女を見つめると、シズクは笑みを浮かべて続けた。
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