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耳をつんざく様なスリップ音と衝撃。
「何!?」
運転手と連絡を取る為のスピーカーボタンを押すと、焦ったような声が響いた。
『お、お逃げくださ――』
グシャリと、まるで水っぽい果物が砕けた様な音が、スピーカー越しに聞こえた。
「――表出ろ!!」
答える間もなく、新一の体はシロウの腕に引かれ、開け放たれたドアの外に放り出された。
したたかに背中を打ったせいで呼吸がまともに出来ず、思わず唸る。
朦朧とする意識を奮い立たせ、周りを持た瞬間、新一は愕然とした。
(なん、だ……これ)
右見ても左を見ても、日本とは思えない荒れ果てた風景。
道路はひび割れ、車は横転し、その下から赤い液体と腕が見えた。
それはどう見ても子供の物で……。
「――ッ!」
あまりの現状に思わず目をそらすと、その先にある、異物に気付いてしまった。
真っ黒な人型。
長く細い手足に、眼や口と言った器官は一切ないつるりとした顔と思わしき場所。
胴体もこれまたガリガリで、拒食症を患ってしまった患者をテレビで見たことがあるが、それ以上に細く感じた。
そして、その異様な黒い化け物は、ビルの四階部分に腕を突っ込み、人を捕らえていた。
人間とは思えない悲鳴と怒号。
その腕に捉えられた男女は必死にもがき、逃げようとするが握られた手がギュッと力を入れると、血が噴き出し、何度か痙攣をした後動かなくなった。
それを口元に持っていくと、突如大きく裂けて、彼らを放り込んだ。
まるでスナックのような気安さで、咀嚼した。
バキベキ、ぐちゃりと音だけが耳に届く。
恐怖。
新一はシンプルな感情に支配され、走り出した。
一秒でも早くこの場を去らねば。
そう思った時、シズクの姿が目に入った。
頭から血を流し、ひび割れた道路に投げ出されるようにして倒れている。
迷った、見捨てて逃げようかと本気で迷ったが、新一は彼女の元へ走る事を選んだ。
「おい! 生きてるよな!?」
彼女を抱き上げると、新一は周りを見回す。
シロウの姿がない。
(どこいったんだよ!? 今こそあんたみたいなガタイが役立つときだろうがよ!!)
悪態をつきつつ、新一は彼女を抱え避難する。
先ほどからあの黒い化け物が動くたびに、ビルの破片やらが落ちてくるのだ。
もしかすると、彼女はその破片に当たったのかもしれない。
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