プロローグ

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 深夜一時を回った頃。  一人の青年が、パソコンで今流行りの無料のオンラインゲームに興じていた。  本名は速水新一(はやみしんいち)二十三歳、フリーター。  とある事情により、身寄りのない一人暮らしをしている。  現在、彼は通話ではなくチャットで友人と雑談に興じていた。  すると、その相手から唐突に話題を振られる。 『あ、そういえば聞いた?』 「なに?」 『新しいダンジョンが出来たって』 「まじ?」 『おお、テレビでもやってるぞ?』  ここでいう『新しいダンジョン』とは、ゲームの話ではない。  現実の話だ。  五年前、この日本――いや世界各地で、突如『ダンジョン』という謎の存在が各地に同時発見された。  使われなくなった田舎の廃坑、森に突然現れた地下へ続く洞窟、酷い時なんか道端に突然地下への階段が生まれたといった事件もあった。  当初は、ネットで新一を含めたファンタジーを愛する多くの若者が、大いに盛り上がった。  さらには一部の動画配信者が、警察の立ち入り禁止の札を無視し、無断でダンジョン内に突入してしまった。  まだ見ぬ異世界と思わしきそれに胸を高鳴らせつつ、動画を見るが、それはすぐに恐怖へと塗り替わった。  最初は怯えながら進む配信者も、暫く何も起きないと分かると、すぐに余裕を出し、笑いながら歩き始めた。  周囲には友人もいるようで、数名の笑い声もパソコンから聞こえる。 『ダンジョンとかマジよゆーだわ。あ、面白かったらチャンネル登録よろー』  男の一人が、軽い口調で告げると、突然画面が地面を映した。  ガチャ、と音をたてた事から『機材を落とした』という事が伺えた。  すると『見えない』や『はよ拾え』といったコメントが流れると同時に――。 『ぎゃあああああああああああ!!!!!』    壮絶な悲鳴が響き渡った。  最初は冗談か何かだと思った新一らだったが、聞こえてくる悲鳴と騒音、助けを乞う男女の声があまりにも壮絶で、視聴をしていた皆が、流石にただ事ではないと察した。  その中、新一は画面から目を逸らす事が出来ず、ひたすら見続けた。
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