第一章 雪解けず燃える

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 どんよりと曇った空は、落ちてきそうな程に重く、昼過ぎに雪が降り出した。  深々とした冷えは、じわりと地面から浮き上がってくるようだ。ここはマンションの高層階であったが、じわじわと足元から寒さがやってくるのには変わりがない。 「……雪だ」  始めは舞う程度の雪であったが、夕方になると本格的に降ってきた。そして、夜になると更に雪が増し風も吹いてきていた。  雪の夜は静かで、自分の声がよく聞こえる。自分の声に耳を澄ませていると、心の声まで聞こえているような気分になる。 「……死保に帰るかな……」  スカウトという仕事を死保から受けていたが、期間も満了となるし、成果もあげたのでもう帰らなくてはいけない。 「そうか、もう帰ってしまうのか……」  寂しそうに、松下が呟いていた。  ここは松下のマンションで、橘保険事務所の派出所であった。寒河江の情報を読んでいたが、俺は時間を確認して眠る事にした。 「寝ましょう、松下さん」  松下のマンションには、俺の部屋もあるのだが、眠ると松下が俺を運んでしまうので、最初から一緒に眠る事にした。  俺は市来 大護(いちき だいご)。元は、旅行会社でツアーコンダクター兼企画をしていたが、ある日、死保のメンバーになっていた。  死保とは、死んでいる者、もしくは、死に近しい状態の者で、自分が死んだ(もしくは、その状態に陥った)原因を知らない者が行く場所となっていた。死保にはチームがあり、それぞれに仕事がやってくる。俺は、仕事を受けて、今、現世に来ているが、本来は死保留の特殊な場所で生活している。  人は、何故死に至ったのか知らないと、次のステップに行けないらしい。そこで、死保が調査していた。  死保と幽霊には違いがあり、幽霊は死を納得していない者で、記憶には何故死んだのかが刻まれているらしい。そこで、死を納得、もしくは昇華(条件をクリア)すれば次のステップに行ける。しかし、死保の者は、死んでいるのかも、瀕死なのかも分からず、どこに行ったらいいのか分からない状態となっていた。そこで、自分がどうなっているのか、知らなくてはいけないのだが、自分が思い出さなければ、調査が出来ない。  俺達は、自分の記憶が戻るまで、死保で働き続ける。
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