第一章 雪解けず燃える

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 翌日の早朝、俺はドアを幾度もノックする音に気付き目が覚めた。インターホンを鳴らしては、ドアを激しく叩いていて尋常ではない。松下は疲れているのか眠っているので、起こさないまま俺が玄関に行った。 「何でしょうか……」  玄関の映像を確認すると、雪矢が映っていて、その横に雨之目がいた。必死でノックする雪矢に対し、雨之目は冷静に警察手帳を出して待っている。  かなりうるさいので、近所の人も出てきてしまいそうだ。すると、雨之目の警察手帳を見て、何事かと思うだろう。  俺は、慌ててドアを開けた。 「何ですか?こんな早朝に……」 「市来君が帰ってしまうと思ってね、急いで来たよ」  雨之目は雪のついたコートを叩き、通路に雪を落していた。雪を払う魔も無い程に、ここに急いで来たのだろう。通路で話すのは目立つので、中に入れるしかない。俺が玄関を開くと、雨之目と雪矢が入ってきた。  雨之目は、迷わずに橘保険事務所の派出所に入ると、俺にコーヒーを要求してきた。雪矢は、玄関の横に派出所があるというのに、迷子になってリビングを彷徨っていた。 「雪矢さん、うるさくしないでください。松下さんは疲れているので、休ませてあげてください」  俺は、雪矢の腕を引っ張って、派出所の中に入れておいた。そして、キッチンに行くと、コーヒーを持って部屋に戻った。 「市来君、何か食べ物が欲しいです」  雨之目はコーヒーを飲みながら寛ぎ、俺に朝食を要求してきた。俺も、雨之目を無視したいのだが、朝食と聞いた雪矢の腹が鳴っているので、ついキッチンに行くと、パンを焼いてしまった。 「中華ではないの?」  俺の実家は中華料理店であったので、俺もよく中華料理を作っている。 「しょうがないですね……昨日の夜の残り物ですけど、どうぞ」  俺は、冷蔵庫から青椒肉絲と餃子を出し、温めると持って行った。 「相変わらず、美味しいよね」 「ここに朝食を食べに来たのではないですよね?何の用事ですか?」  雨之目と雪矢は刑事で、今は捜査一課で主に殺人を調査している。 「話すと長くなるけど」 「それではいいです。俺は、死保に戻らないといけないので、対応できません」  死保には、期間内に帰らないと消滅してしまうのだ。それに、俺のチームは一人欠けてしまい、立て直しも行わなくてはいけない。 「……待ってくださいよ。だから、俺達は急いで来たのですよ」
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