第一章 雪解けず燃える

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 ならば急いで内容を言って欲しいものだが、雪矢はパンを食べていた。  雪矢を見てみると、スーツはやや濡れて汚れていた。もしかして、本当に急いでいて、現場からここに直行したのかもしれないが、俺は現世の事件を自由に担当できるわけではない。 「……ここでは昨日から雪が降っていたのですよね。でも、山では三日前から雪が降っていました」  雪矢は、雪がどれくらい積もっていて、どのように苦労したのか、必死に言っていた。でも、メインの内容は、雪には関係がないのだろう。雨之目が、冷たい目で雪矢を見ていた。 「……雪矢、音痴は建物と動物だけではなく、会話もか?」 「そうでした。言いたい事は、雪ではないのですよ」  事件が発生し、殺人ではなく自殺で処理されるのだが、どうにもおかしいのだそうだ。 「それは、警察の仕事でしょう?」 「でも、上層部が自殺で処理していいと、捜査の打ち切りを言ってきているので、逆らえないのですよ」  現場の状況は、自殺になっているが、そこに感情的に不可解な点があるのだそうだ。その感情的に不可解だけでは、証拠がないので捜査が出来ない。 「でも、俺は金を使い果たしているので、死保に戻らないといけないのですよ……それに、死保からの指示がないと、捜査すると消滅ですよ」  死保から出てくる時に、財布の中身は生前の金額に戻る。今回は期間が長かったので、金を使い果たし、さらにスカウト中に競馬で稼いだ金も使い果たした。 「では、一旦、死保に戻ってもいいです。又、出て来てください」 「……死保は、俺の自由で出入りできないけどね。検討しておくよ」  雪矢はパンを急いで食べると、事件の発端から話し始めた。  三日前、山には雪が降り始め、それは前が見えないほどの吹雪になった。誰もが外出を避け、家の中に籠っていた。  雪は一晩中振り続け、翌朝には屋根を押し潰す程の量になっていた。しかし、雪掻きも束の間、再び吹雪がやってきた。 「そんな吹雪の中で、火事があったのですよ……」  山が燃えていると通報があり、消防が現場に行こうとしたが、猛吹雪と積雪により、身動きが取れなかった。火事の発見者は、屋根が気になり、様子を確認しようと外に出た。吹雪は激しく外は真っ暗の筈なのに、山の方角がオレンジに浮かんでいたという。そこで、家族を呼んで、オレンジの原因は火事ではないのかと推測した。そこで、消防に連絡した。
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