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歴史は経済に比べて簡単だった。ざっくりとした流れは小中学生で習っているので理解しやすかった。もちろん内容は以前より詳しくなるけど、高校受験で頑張ったのも役立った。
それになんと言っても渕先生の授業は分かりやすく、先生は語呂合わせで「46しくビッドル」など、苦手な年号も出来事と一緒に覚えられた。
「歴史っていうのはな、全部どこかで繋がってるんだよ。そして今ー…現代社会がある。
だから一つでもいい。好きな時代や出来事や人物を見つけてみろ。それだけできっと歴史が楽しくなるからさ」
いつの事だっただろう。予定より早く終わったのか先生は急に真面目な口調で語り出した。
クラスのみんなからは「クサイこと言うなよー」とか「先生、何か嫌なことあった?」などと散々なからかわれようだったが、私の心には伝わった。トクトク、と鼓動に。
もしその好きな人物っていうのは先生でもありなのだろうか?いつか先生の好きな歴史上の人物を聞いて、私は渕先生って言ったらどうなるだろうか。引かれるかな。でもきっと昨年凛ちゃんのクラスで女子生徒と話していた時みたいに、困りながらも嬉しそうに笑ってくれるんだろうな。
そんな起こりもしない妄想ににやけているといつの間にか授業は終わって、先生の姿はなくなっていた。
渕先生の帰還は早い。日本史の授業は夢みたいに儚くて尊い時間。これも先生の授業になって知ったことの一つ。毎回の雑談で少しづつ増えていく先生の情報を知るだけで今は満足だった。
ー…頑張ろう。そしていつか、先生に見つけてもらうんだ。
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