執着

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札幌に中部地方から喫茶店が進出してきた。昔期間工していた時息抜きによく行っていたフランチャイズの進出。ブラックでも甘みのあるアイスコーヒーにシフォンケーキを楽しむ。しかし財布には支払いできる分しか金はない。パチンコで負けてしまったからだ。 私はギャンブル依存症のようである。年の瀬に有り金の大半を溶かしてしまった。それでも死なないのは不思議なもの。幸運に感謝する。 しかしながらこの病気は厄介だ。嘘をついて金の工面をしようとし、依存症を認めない。なによりこいつは治ることがない。救われるためには意識、脳、思考の根本。自分と戦わないといけない。 「兄さん約束と違うじゃないか!」強い語気が私の座っている席の右奥からした。どうやら揉めているらしい。二人の男が向かい合って座っている。語気を荒げた方がこちらを向いている。兄と呼ばれた背中を見せている方が喋っているが声はあまり聞こえない。断片的単語、父さん、遺産、相続が。喫茶店で父親の遺産について話しているようだ。 こちらから顔が見えるおそらく弟は、賢そうで真面目な雰囲気。兄の方は背中を丸め重鈍なイメージ。おそらく相続の法的知識もないのにとり分を保障したのだろうか? やがて話し合いが決裂したのか疲れた表情で弟は席を立って店を出た。 驚いたのはその後だった。兄はミルフィーユのケーキセットを追加注文するとガツガツ食い始めた。食い終わりレジへ向かう直前たしかに下品な声で言った。 「全部俺のモノだ。」 地獄の底まで落ちるような冷たさを感じた。兄は重鈍ではなく我欲に正直なキレ者かもしれない。実直な弟を陥れ、親族を籠絡してでも金を得ようとする純粋な下衆かもしれない。 そう思うと私などかわいい下衆だ。 支払いを済ますと財布に数百円残っていた。年末パンのミミ売ってる所はないものか。
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