その先を僕は知らない

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「お待たせ。今日は何を聴いているの?」 「The Pillows」 「最近よく聴いてるね」 「焦燥と期待。危うさと眩しさ。そんな気分」 「もう高校も終わるもんね」 「それを抱えて生きるしかないから、私たちは感情に振り回される」 「ヒトミもそうなの?」 「脱出する方法は、二つしかまだ知らない」  言いながら、彼女は突然ガードレールから倒れ出した、って、え、ちょっと! 「危ないよ!」  どうにか受け止めることができた。一瞬で汗が噴き出してきた。 「一つは、止まること。完全停止」 「下手したら死んじゃうよ! わかってる?」 「もう一つは、止めないこと。永遠に思考すること」  怒りながら、ちょっと別のドキドキを感じている自分が恥ずかしい。  一応ケガがないかざっと見て、無事なようで安心する。  ただ、安堵した僕のことを、彼女はじっと、睨むように見つめた。 「な、なに?」 「でもたまには、感情に振り回されたい時もある」 「いたっ、え、なんでしかもグーって!」  やっぱり彼女はわからない。  でもどうしてか、かわいいと思えてしまおうのは、僕が好きって感情に、振り回されてるからなのかな。  歩き出す彼女において行かれないように、横に並ぶ。  まだ日が沈まないで良かった。  これだけ鮮やかに橙に染められていたら、赤くなっていることなんて、わからないもんね。           了
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加