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そして、事件の日。奇しくもその日は私の誕生日だった。私の前に小ぶりのホールケーキが置かれる。真っ白なホイップクリームが場違いに綺麗だ。
「誕生日おめでとう」
彼は優しく微笑んで、そう言った。私は一瞬怯んだ振りをして、またすぐに彼を睨みつけた。早く殺してもらえるように反抗的な態度で彼の信仰心を煽っていく。
彼はそんな私の姿に耐えきれなくなったのか、後ろ手に隠していたナイフを取り出す。ぬらぬらと艶かしい光を反射するそれは、とても魅力的な姿をしていた。
それを私の人一倍細い首筋にそっと宛てがった。私は嬉しくて笑ってしまいそうだったので咄嗟に俯く。彼の姿はよく見えなかったが、今の彼なら確実に殺してくれるだろう。
ああ、ようやく彼の神様になれる、早くそのナイフで私の首を。
「さようなら、僕の神様」
彼が独りごちる。
力が込められる。
鋭い痛み。
少し遅れて血が吹き出る。
ケーキに降りかかる。
血が失われる感覚が妙に生々しい。
死ぬ直前、私は顔を上げて彼に微笑んだ。
ありがとう
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