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前方からやってきた人影に、葵が1歩下がって道を空ける。互いに挨拶を交わしながら一列になってすれ違った直後、葵が後方から呼びかけてきた。
「あの、鳴海さん」
「ん?」
「今日は連れてきてくださって、ありがとうございました」
鳴海は足を止めて振り返った。そして、こちらこそ、と返した。その胸に、あたたかなものがこみあげる。
ふたたび歩き出すと、葵が足を速めて追いついてきた。
「小夜と、なに話してた?」
葵が並んだタイミングで尋ねてみる。そんな鳴海を、葵は振り仰いだ。
一度開きかけた口唇が思いなおしたように閉ざされる。それから、ひと呼吸置いてもう一度開いた。
「内緒です。女同士の秘密の話」
口許に浮かぶのは、満面の笑み。
その顔を見て、鳴海の口許にも微笑が閃いた。
横にいる葵から転じて視線を上げると、青空の中に浮かんでいるのは真昼の白い月。鳴海はその月を、穏やかな気持ちで眩しく見つめた。
~end ~
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