第5章

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「教えてもらったとおりにやったつもりなのに、どうしてうまくいかないんだろう……」  鳴海の手ほどきを受けて、言われたとおりに攪拌したはずが、納得のいく仕上がりならない。最初は大切な材料を素人の自分が触るわけにはいかないと固辞していた葵だったが、毎回、あまりにも興味深そうに鳴海の仕事ぶりを眺めているため、少量のチョコレートでやってみるよう鳴海のほうからうながしたのである。  型枠から取り出したチョコを試食する鳴海を、葵は不安そうに窺っている。鳴海はそれに対し、言うほど悪くはないと合格点を出した。 「なかなかうまくできてるんじゃないか? はじめてにしては、いい仕上がりだと思うが」 「そんなことないです。食感も風味も全然違いますもん。それに、鳴海さんのと比べるとツヤも悪いし。きっと時間が経ったら、もっとはっきり質の悪さが出ちゃう。鳴海さん見てるとすごく簡単そうにやってるように見えるのに、こんなに難しいなんて」  言ったあとで、深々と息をついた。 「やっぱり鳴海さん、すごいです」 「そりゃあ、まがりなりにもプロだから」  鳴海は小さく笑った。
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