第5章

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第5章

   (1)  クリスマスも年末年始も、そこそこの慌ただしさはあったものの、比較的平穏に過ぎていった。だが、1月も半ばを過ぎてくると、バレンタイン商戦に向け、チョコレート専門店ならではの緊張感が次第に増してくる。店のほうはすでに葵に任せておいても支障はなくなってきているため、鳴海はここ最近、厨房に籠もって作業に集中していることが多くなった。  勉強熱心で日々の仕事を真摯にこなす葵の姿勢も変わらない。最近では、開店前や店を閉めたあとに、タルトの生地作りやメレンゲ、生クリームの準備なども率先して手伝ってくれる。おかげで鳴海の負担も、ぐっと軽くなった。  ひとりで切り盛りすることがあたりまえになっていた開店当初からの数ヶ月に比べ、女性ならではのこまやかな気配りが行き届いた最近の店の雰囲気は、以前よりだいぶ華やいで、明るくなったように感じられた。  そんな葵が、先程から目の前で眉間に皺を寄せ、難しい顔をしている。自分でテンパリングをかけたチョコを、試食しているところだった。
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