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第2章
(1)
正面のガラスのドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
顔を上げた鳴海は、来店した客に声をかけた。若い女性のふたり連れ。仕事帰りのOLだろう。
駅から徒歩7分。鳴海がチョコレート専門店『ル・シエル・エトワール』をオープンして、まもなく半年になろうとしていた。
開店時、あまり大々的な宣伝は行わなかったため、口コミで少しずつ固定客がついてきたところだった。たったいま来店したふたりも、顔馴染みになりつつある客のひと組だった。2、3週間に一度のペースで顔を見せるようになってすでに4度目か5度目。そろそろ、常連と言ってもいいリピーターかもしれない。
「いい匂~い」
「ホント、いつ来ても癒されるよねぇ」
賑やかに言いながら、勝手知ったる様子で奥のカフェスペースに移動していく。鳴海もまた、ウォーターサーバーの冷えた水をグラスに注いでテーブル席に足を運んだ。
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