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カマを掛けてみると、露骨に表情に表れた。こういう腹の探り合いには慣れていないようだ。やはり彼らが動向を窺っていたのは国塚あおいではなく、橋場のほうだったということだ。
僕はもう一度座らないかと目で促した。動揺を顔に出してしまったことに、彼自身も気付いているようだった。やがて彼は観念したようにため息をつき、椅子を引いて僕の向かいに座った。そうして不貞腐れた態度で体を斜にして、長い脚を組む。かちかち、と音がするので手元を見ると、右手の親指が苛立たしげに指輪を弾いていた。
「彼女が何をしようとしているのかについては、君に訊くつもりはないよ。調べられるものなら調べてみろ。きっと彼女はそう思ってるだろうからね。君だって、訊いたところで答えてはくれないだろう?」
彼は不敵に「ふん」と鼻を鳴らす。わかってるんじゃねえか、と言うように。
「うん。だから僕は、君のことが知りたいと思った。君がいったいどうして、彼女に協力しているのかってね」
無言だった。それについても、答えるつもりはないのだろう。
「最初はお金で雇われたのかと思った」
無言。
「それか、体で手懐けられたのかとも」
やっぱり無言。しかし今度は、明らかに横顔に怒りを滲ませていた。奥歯を噛み締めたのだろう、耳の下に尖った筋が浮き上がる。わかるよ、僕だって本当はこんな下品なことは言いたくない。だけどこうして挑発すれば、君は素直な反応を見せてくれるだろう?
「でもやっぱり、僕にはそうは見えなかったんだ。何でだろう……率直に言って、君たちの関係は悪くないなって感じてたんだよ」
そう、僕が彼について知りたくなったのはそのためだった。おそらく彼女がミロワールとしてこの世に実体を持ってから、そう長い時間は経っていない。せいぜいが数週間。そのわずかな間に、どうやってそんな関係を築くことができたのか。僕にはそれが不思議だった。
「彼女とはどうやって知り合ったの?」
無言。
「彼女と知り合ってから、どのくらい経った?」
無言。
「彼女のことが好きなの?」
またも無言。しかし、今度は明らかに瞳が揺れた。怒りではなく、内心を見透かされたことへの動揺か。なるほど、なかなか可愛い。
ここが攻めどきだと感じて、僕はさらに爆弾をひとつ放り込んでみた。
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